娘の部屋に踏み込むと、どうやら泣いたらしい事が知れた。見たのでも聞いたのでもなく、嗅いだ。
どこか樟脳の匂いに似た、鼻をきゅんとさせる類の香りで部屋は満ちている。
部屋の隅に膝を立てて顔を伏して踞る娘の顔は見えない、ただズボンの裾から生白い足首が蛍光灯に照らされている。
「どうした」
センクウは尋ねた。娘が何をそんなに泣くのかわからぬ。ただ、娘が泣けば泣くだけ香りは強まってセンクウの胸へ染み入る。
「何が恐ろしい」
「いいえ」
いいえ、と言いながらも娘は泣き続けている。センクウはやりきれない気分に胸を押さえた。
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