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邪鬼が見合いをすることになった。
当然のように相手は日本有数の良家の子女で、気立てのやさしい美しい女だった。
元三号生の誰もが当然のようにハンケチをかみ締めたあと、
「おい、影慶がいないぞ」
恐ろしい事に気がついた。
影慶、
邪鬼の腹心にして同志。
もっとも邪鬼に近しくて、もっとも邪鬼に心酔している。
神に接するようにというにはなまなましい想いはダダ漏れである。

「影慶、気を落とすな」
羅刹が気遣ってそう言うと、いつもより目陰くろぐろたるまぶたを弾いて、
「いいのだ、俺は一生日陰の身でも」
などと健気な事を言う。羅刹は思わずぐっとなった。
「あまりそういうことを言うな」
「……いいのだ、俺は子も生めん、どこの馬の骨ともわからぬ」
「影慶」
「妾でもいい、お側に居られれば」
「影慶、」
羅刹は胸が熱くなるようだった。




もちろんと言うと羅刹には気の毒だが、もちろん邪鬼と影慶の間にそうした付き合いは無い。
ただ時折邪鬼の指から蜂蜜をなめとったり、足の甲へ額をつけたり、それだけである。
「あいつたぶんさ、」
卍丸が言った。
「たぶん、『日陰の身』とか、『妾』とか、ああいうシチュエーション大好きなんだろ」
「陶酔型だな」
「ああ」


「一生表立ってあの方のお側には侍れぬわが身、それでも恨みはいたしますまい…ああ…!!」
影慶は身悶えせんばかりに身体をよじりながら、一際高い声を上げた。
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