光沢のあるみっしりと重たい生地で仕立てられたスーツを着込んだ羅刹は、それはそれは玄人だ。
まずサラリーマンには見えない。
そこへシルクのブラックタイなど締めようなら、今度はカタギに見えない。
更に花束など持たせれば、現実社会にいるようにすら見えない。
大輪の花束は百合。
「素敵よ、おじさま」
舞台化粧も落とさず、チュチュも脱がず、ただトウシューズだけを脱ぎ捨てたエトワールは笑った。
天上への憧れであるトウシューズを脱いだなら、ただ地べたを這いずる生身そのもの。
どこか浮世離れしていたステージ上とはまるで印象を変えて、羅刹へと飛びつく。
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