時候の挨拶から始まり、身の回りで起こった物事に触れ、それからまた近いうちに会おうという言葉で締めてある。
簡潔な手紙だった。
だが、伊達の好む色の紙を選び、わざわざ硯を寄せて、緑深い綾なる墨をたっぷり使って文字を綴ってある。
手間と、時間をかけて。
電話もある。
誰かに言伝てを頼んでもいい。
しかし桃は伊達へ手紙を送る。
何より伊達を震わすのは宛名、つまり伊達の名前。
その宛名が時折はやるように流れ乱れていたり、
また緊張しているようにかくばっていたり、
まるで今伊達を目の前にして呼んでいるようであった。
伊達の書斎のひきだしには、こうした手紙が詰まっている。
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