ちょっとした引越しの手伝いに、桃と伊達がかり出された。
二人おそろいのツナギを着こんでえっちらおっちら、タンスやら鏡台やらをせっせと運び出していく。
と、タンスをせえので持ち上げた後の畳の青さを見て、なにやら桃が考え込んでいる様子。
「おい、早くしろ」
中腰でタンスを持ち上げ続けるのはしんどい、たとえ伊達であってもである。伊達は鋭い声を出した。
「いや、何かに…」
「おい」
桃はその畳の青さに何かを思い出しているようであった。
「後にしやがれ、桃!」
「ああ思い出した」
しんどい体勢だろうに桃の声に乱れは無い。伊達はさっさと立てとタンス越しに声を荒げた。
「何がだ!」
「富樫の髪の毛、あの後ろっ毛を掴むだろう。そうすると富樫はなんじゃい桃ォとこうだ、その髪の毛をふさりと持ち上げるとなんとなくその肌は明るく白い」
それを思い出した――
そう言い切った桃に伊達は無言になった。