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ことん、
ことん、
ことん、
ことん、



「伊達の心臓って、静かだな」
「てめぇが騒がしいんだ」
「お前の心臓……眠く……なる」





重いんだよ、
伊達は渋い顔をしたが、虎丸の身体を突き放しはしなかった。
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「猫が居なくなってしまったんだ」
「それは寂しいでしょうね」
「寂しくて夜も眠れやしない」
「大変だ」
「何が悪かったんだろう」
「さて」
「あんなに可愛がっていたし、大事にしていたのに」
「さて…猫というのは気まぐれですからねぇ」
「あいつも俺が大好きだったんだ」
「………」
「首根っこ掴んで引きずり抱こうにも、姿すら見えない」
「それで、あたしに何を願うんです?」
「ああ、あいつを俺のところに帰らせる魔法を」
「ふうん…ハチマキのお兄さん何か勘違いしてるかもしれませんけどね、あたしは決して魔法なんて」
「自分でもおかしいとは思う。だが…お前が何であれ、俺の元に伊達を、猫を戻してくれるならそれは魔法さ」

「いいでしょう、そんなら…そんならまず今一番大事なものを寄越してもらいますよ」
「それが今居ないから困ってるんじゃないか」
「……それ以外に」
「それならこのハチマキだ」
「結構。そしたら探す人の」
「猫だ」
「……猫の毛とか、血とか、体の一部を」
「ううん、それならこのハチマキだ。あいつの血が少し染みている」
「無体をなさいましたねぇ」
「………」
「そしたらね、もうしばらくしたら戻りますよ」
「え?」
「そういう魔法をかけましたから」



果たしてそうなるのだった。


「ねえどうやったの?」
「たいした事じゃないよ。ああいうのはね、何か怒らせた事に気づいて居ないのさ」
「ふうん…ねえ」
「まずね、預かった大事なものを戸口へぶら下げておく。その隣にこの紙を貼り付けるのさ」
「なんにも書いてないよ」
「そうさ、血や体の一部を預かった相手にしか見えないように書き付けてある」
「なんて?」
「どうか許してください、君がいなけりゃ息もできない。こうしているうちにもこのハチマキで首をくくってしまいそうだ」
「……ハチマキじゃなかったらどうするのさ」
「カンザシなら喉を突くでも、なんでもいいさ」
「……この紙を見に来ないならどうするのさ」
「おっぽりだして気にもならないような間柄ってことさ、何度も言うけどあたしは魔法使いじゃないんだから」
「ふうん」
「ま、戻ってきたってことはそれぐらいに情のつながりがあるって、そういうことだろう」
「だってなんだか、だってだってなんだもん♪」

「俺のところに来るなり歌いだす理由を言ってみろ桃。理由によっちゃタダじゃおかねぇ」
「おれはじゃきという、きさまはなんというのだ。なをなのれ」

「……俺は、いや、私は、影慶と言うのですよ、邪鬼様」

邪鬼様、そう恭しく呼ばれて少年はとても嬉しそうに笑う。

「そうか、えいけい。いいたいどだ。おれがめかけにしてやろう」

意味も知らずに言っているらしいのが、たまらなく愛らしかった。
桃が物思いに耽っている、ふう、と重たげなため息をついた。
「………何か」
「ああ、伊達。実は今、千千に乱れているんだ」
「あ?」
「冷たいな、何か言ってくれよ」
「どうでもいい」
「何だって?お前は俺がどうでもいいのか?」
「まぁな」
「千千に乱れる俺に、興味が無いのか」
「……あ?」
「千千に乱れる俺だぞ」
「桃」
「乱れる」
「帰れ」
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