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桃が首をすくめた、富樫が桃の頬についていた花びらを落とそうと指を伸ばしたのだが、その指先がチクチクと荒れていたのが掠めたらしい。 「悪ィ」 「いいさ」 その荒れた太い指が、桃は好きだった。
スーツの富樫があんまり精悍に立っていたから、 ものすごくたまらない気持ちになる。 「なんじゃい、…けっ、おかしいなら笑えや」 おかしかないさ。 おかすしかないさ。 なんて。
富樫、富樫、抱いてくれ。 スーツなんか脱いで、生身の腕で抱いてくれ。 このまとわりつく死の匂いなんざ、 「ヘでもねえや」 って笑い飛ばしてくれ。 お前の強さを俺にくれ。 「でも実際抱くのは俺だがな」 「桃おめえ台無しにもほどがあんぜ」
「たまにな」 桃は窓の外に目をやりながら呟いた。 「たまに俺には、伊達が」 桃は目を伏せた。頬に笑みのかげりがある。 「必死に懸命に毛を逆立てる猫のように見えるんだ」 おかしいかと聞かれたので、ああおかしいともと言ってやった。 「そうかな」 そうだとも、と言ってやった。 ただあんまりきれいな顔で桃がそういったので、少しばかり返事が遅れたかもしれない。