さて桃はどうくるか、伊達は懐から腕を出し人差し指と親指で顎をつまむ。
おおかた大嫌いだと言いに来るのだろう。
知りうる言葉のなかでもっとも激しく痛い言葉をもちいて伊達を傷つけるだろう。
エイプリルフールだから。
わかっていても伊達が戸惑うのを見に来るのだろう。
そんなふうに考えていた伊達の元に、仏頂面が桃の来訪を告げに来た。
「何か言うことでもあるかよ」
先手を打って、伊達が尋ねる。
桃は黒目のすずやかな目元をひとうちして、
「好きだ、伊達」
当たり前のように、
おはようと言うようにそう言った。
伊達はひどく驚いた。
傷つけられるよりよほど悪い。
思わず伊達は身を乗り出して、
「桃」
自分でも舌打ちしそうなぐらいに余裕のない声で呼んだ。
「わかっているさ、エイプリルフールだろう?」
わかっているならなぜ、
「伊達、俺はお前が好きだ。たとえエイプリルフールがどうだろうと、お前に対してせめて誠実でありつづけたいんだ」
「好きだ、伊達」
「桃、俺はお前が好きだ」
伊達がどちらの意味で言ったのか、
伊達は最初から判断は桃に委ねている。
おおかた大嫌いだと言いに来るのだろう。
知りうる言葉のなかでもっとも激しく痛い言葉をもちいて伊達を傷つけるだろう。
エイプリルフールだから。
わかっていても伊達が戸惑うのを見に来るのだろう。
そんなふうに考えていた伊達の元に、仏頂面が桃の来訪を告げに来た。
「何か言うことでもあるかよ」
先手を打って、伊達が尋ねる。
桃は黒目のすずやかな目元をひとうちして、
「好きだ、伊達」
当たり前のように、
おはようと言うようにそう言った。
伊達はひどく驚いた。
傷つけられるよりよほど悪い。
思わず伊達は身を乗り出して、
「桃」
自分でも舌打ちしそうなぐらいに余裕のない声で呼んだ。
「わかっているさ、エイプリルフールだろう?」
わかっているならなぜ、
「伊達、俺はお前が好きだ。たとえエイプリルフールがどうだろうと、お前に対してせめて誠実でありつづけたいんだ」
「好きだ、伊達」
「桃、俺はお前が好きだ」
伊達がどちらの意味で言ったのか、
伊達は最初から判断は桃に委ねている。
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案外器用にうごくものだ、そんな事を思いながら桃は眉をふわりと張って富樫を見ている。
富樫は昔からあまり器用なタチではない。それは指先だけではない、生き様すらも不器用だった。
食事の当番をさせて、富樫がどうしていたか。あいにく桃は思い出せない。
出あってから数十年が経ち、今目の前でちまちまと餃子を包んでいる富樫の横顔は真剣で桃の眼差しにも気がつかない。
集中しているのだ。
口を結んで、険しいぐらいに目をきつくした富樫。
指は機械のように同じ動作を繰り返している。
ひたすらに餡をのせ、つつみ、折りたたむ。
その繰り返しをちまちま続ける富樫が、なんだか桃にはとても新鮮だったのだ。
富樫が視線に気づいたのはだいぶ後のこと。
「おい、しっかり手を動かせよ。飯がどんどん遅れっぜ」
ああ、桃は頷いてゆったりと微笑んだ。
富樫は昔からあまり器用なタチではない。それは指先だけではない、生き様すらも不器用だった。
食事の当番をさせて、富樫がどうしていたか。あいにく桃は思い出せない。
出あってから数十年が経ち、今目の前でちまちまと餃子を包んでいる富樫の横顔は真剣で桃の眼差しにも気がつかない。
集中しているのだ。
口を結んで、険しいぐらいに目をきつくした富樫。
指は機械のように同じ動作を繰り返している。
ひたすらに餡をのせ、つつみ、折りたたむ。
その繰り返しをちまちま続ける富樫が、なんだか桃にはとても新鮮だったのだ。
富樫が視線に気づいたのはだいぶ後のこと。
「おい、しっかり手を動かせよ。飯がどんどん遅れっぜ」
ああ、桃は頷いてゆったりと微笑んだ。